2015年12月13日

日印の原子力協定は非核のルール厳格に

13日朝刊2面【総合・政治】社説1
 安倍晋三首相はインドでモディ首相と会談し、両国政府が原子力協定を結ぶことで大筋合意した。インドは原子力発電所を大幅に増やす計画で、日本がもつ原発技術に強い期待を寄せている。政府間で協定ができれば日本の原発メーカーによる輸出に道筋がつく。
 だが協定締結にあたっては、インドが核拡散防止条約(NPT)に入らず核実験を重ね、核兵器を保有していることを忘れてはならない。日本が提供する技術や機材、情報が核兵器の研究・製造に転用されないよう、厳しい歯止めをかけることが欠かせない。
 安倍首相は「協力を平和目的に限定する内容を確保した」と述べたが、中身は明らかにしなかった。軍事転用を防ぎ、民生利用に限定する仕組みをどのように設けたのか。日本政府は国民や国際社会に丁寧に説明する義務がある。
 今後の交渉ではルールをさらに詰め、協力の範囲や対象をはっきりさせなければならない。
 インドは経済成長に伴い電力が不足し、温暖化対策でも原発を切り札と位置づけている。米国やフランスなどと原子力協定を結び、原発の輸入に動き出している。
 欧米メーカーが原発を輸出する場合でも、原子炉容器などで高い技術をもつ日本メーカー抜きには成り立たなくなっている。インドが民生分野で原発の利用拡大をめざすのであれば、日本だけが背を向けているわけにはいくまい。
 一方で、日本は唯一の被爆国として核兵器を持たず、他国の核武装にも協力しないことを原則としてきた。インドとの原子力協力でもこれを貫き、核実験を再開しないよう求め、NPT加盟や核軍縮を粘り強く働きかけるべきだ。
 首脳会談では、インドが商都ムンバイと北西部の工業都市アーメダバードの間に計画する高速鉄道に、日本の新幹線技術を採用することも決まった。建設費用の一部を円借款で支援する。
 高速鉄道は各国で計画が相次ぎ、受注競争が激しさを増している。今回の決定を日本が世界市場で競うための足がかりとしたい。
 鉄道車両の輸出や線路の建設で終わらせず、運行や保守にも関与していくことが大事だ。事故や故障を減らし安全性の高さを示すことが、長い目でみてコストを下げ、日本のインフラ技術の評価を高めることにつながる。インドの国情に合わせて支援内容を柔軟に修正することも欠かせない。


日印の歴史にとって、新たなページを開きましたね。
もともと、インドとの関係強化は対中国包囲網の要であり、これが大変よく効いています。
原子力協定については、日本が長年締結を希望していましたが、事実上の核保有国でありながらNPTや包括的核実験禁止条約(CTBT)に参加してないことを理由に、アメリカが強固に反対していたのです。
しかし、ジョージ・W・ブッシュ政権時代に、米が方針を転換し、2007年に米印原子力協定を締結。
IAEAの査察など、軍事転用禁止の担保措置を講じたわけで、おそらく日本もこれに倣った協定内容だと思います。
米印原子力協定も対中包囲網の一環だったので、中国は反対措置としてインドと対立しているパキスタンに原発を供与していきますが、インドとパキスタンの経済成長の差からして、この供与は最初からビジネスベースではない、政治色が強いものだったと言えましょう。
日本においても、被爆国だからという理由で日印間の原子力交渉に反対する人たちがいますが、知ってか知らずか中国に荷担していることになっています。
二酸化炭素排出による地球温暖化説には与しませんが、いずれにせよ環境的に化石燃料使用の低減は目指す必要があり、現在の技術においてベースロード電源として原発に代わるものがない以上、日印の協定は国際的にも評価されるものです。
また、高速鉄道計画において、日本の新幹線技術が中国との競争に打ち勝ったのも大きなポイントです。
インドネシアでは、先方の言い分を全部丸呑みしてまで受注を獲得した中国でしたが、そんな無茶な条件を呑めば、あとで大変なトラブルになるのは目に見えています。
これも、前述のパキスタンへの原発供与と同じ話で、商売度外視のスタンスはどうなのかと思います。
ご案内のとおり、英領だった時代の遺産でインドは鉄道大国です。
総延長は62,000キロもあり、日本の27,000キロと較べても倍以上です。
しかし、技術も設備も旧式のため、混雑や事故、輸送量や運行の乱れが大きな問題となってます。
最新の鉄道技術の潜在需要がどれだけあるのか、よくわかると思いますが、日本と同じく経済成長に従って鉄道の高速化と安全性の向上はインド経済にとっても必須です。
当然、この先も中国との競争になりますが、日本は実績を重ねることによって信頼を勝ち得ていくのが最もよいのだと思いますね。


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2015年12月12日

仏社会、テロ暗い影 あす1カ月 続く緊張、極右躍進

12日朝刊6面【国際1】パリ=竹内康雄
 130人の死者を出したパリ同時テロは13日で1カ月を迎える。街では新たなテロを防ぐための厳戒態勢が続く。選挙では「反難民」など内向きな主張を掲げる極右政党が躍進。1年間に2回の大きなテロを経験した仏国民の萎縮が目立つ。仏社会を暗い影が覆っている。
 パリ近郊にある第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)の会場最寄りのブルジェ駅。7日夜、ホームの片隅で3人の警官がアラブ系の若者を尋問していた。「俺に何の問題があるんだ」。若者は身ぶりを交えてやるせなさそうに訴えた。通りかかったスペインの交渉官は「必要な行為だと思うが悲しい光景だ」とつぶやいた。
 同時テロの約10カ月前の1月11日。週刊紙「シャルリエブド」銃撃テロを受け、仏全土には表現の自由などフランスが育んだ価値観を守ろうと約370万人が繰り出した。だが今回はそんな動きはない。1月のテロの標的が週刊紙関係者やユダヤ人だったのに対し同時テロは無差別だった。仏国際関係研究所のエケー研究員は「一般市民もテロと無縁ではないと見せつけた」と国民心理を萎縮させたと分析する。
 過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)との「戦争」を宣言したオランド大統領。即座に非常事態を宣言し、数千人の治安部隊を動員した。強硬姿勢が好感され、支持率はテロ前より20ポイント増え50%に上昇した。
 だからといって国民がテロや難民対策に満足しているわけではない。6日投開票の仏地域圏議会選ではオランド氏属する社会党の得票には結びつかず、極右政党、国民戦線(FN)が大勝した。
 FNの躍進は仏社会の亀裂の深さを物語る。1月と11月のテロを起こしたのは、いずれも欧州の都市郊外に住むイスラム教徒の若者。十分な教育を受けられず、就職では差別され、社会に不満を持って過激思想に流れた。仏社会科学高等研究院のヴィヴィオルカ教授は「郊外に住むイスラム教徒と、それ以外の国民の心理的な距離は一段と広がった」と解説する。
 それでも希望はある。調査会社Ifopによると「イスラム教とテロリストを同一視すべきでない」と考える仏国民は67%と、同時テロ前から4ポイント増えた。FNが唱える「反難民」や「反欧州統合」は仏国民がフランス革命から築き上げた価値観と相いれない。内向きな志向を打破できるか、仏国民が試されている。


いわゆる保守的愛国主義が、欧米で台頭してきているのも当然でしょう。
彼らはISとの戦いを「戦争」と呼んでいるのですから、こうした戦時であれば国民は保守化しますし、自国のアイデンティティーを第一にするものです。
ですから、世論が保守的愛国主義を欲求してるわけですし、それに応える政治が主導権を握っていくことになるのは古今東西同じです。
例えば戦前の日本において、何も「軍部」が勝手に暴走したわけでなく、世論からの欲求に軍が応えただけだと言えましょう。
従って、こうした流れは加速こそすれ、止まることはないのですし、ISとの決着がつくまで暫く続くのだと考えます。

問題は、イスラムとの関係です。
もともと、キリスト教国とイスラムとの関係は十字軍を引き合いに出すまでもなく、お互いによろしくありません。
特に、オスマン帝国を列強で分割した近代の帝国主義時代以降、宗主国と植民地、あるいは先進国と後進国という心理的関係がいまだに残っています。
しかし一方で、安い労働力として旧植民地からのイスラム移民を受け容れ、すでに社会に組み入れてしまっている国もあり、国民内でイスラムか否かを差別しています。
かつてのユダヤ人差別の記憶がまだあるだけに、大っぴらに公言することは憚られていましたが、ここに来てイスラム差別を言うことが「本音」だとされ、それが世論に受けているのです。
彼らに言わせれば、テロを起こしているのはイスラムであり、これは自存自衛のためであるという理屈ですし、過去のユダヤ人差別とは問題が違うんだということです。
しかも、シリア内戦によって大量のイスラム難民が欧州に流入するに至り、経済そして社会に与える影響が決して小さくないどころか、その難民に混じってISに忠誠を誓うテロリストが、EUの致命的なセキュリティの穴をついて入っていたという事実が「本音」に説得力を与えています。
こうした事態ですと、冷静にとか、イスラムと対話でとか、いう暢気なお話ではなくなります。
ですからこの問題は、ISが壊滅したとしても欧米の深く、澱のように沈殿していくのではないか、と感じます。

イスラムとは、戒律の世界です。
雑な言い方をすれば、ムハンマドが生きた7世紀と同じように生きよ、それがイスラムだと言うことです。
同じように生きるためには、当時と同じ様式で祈り、生活し、働き、家庭を築くだけでなく、法律や政治、経済、社会、国家までも規定されます。
イスラムは政教一致と言われてますが、しかし政教一致の理想が実現されたことは歴史上一度もないともされてます。
何故なら、クルアーン(コーラン)どおりにやっていたのでは現実問題に対処できないからであり、「解釈」という逃げ道をつくって対応してきたのでしょう。
パーレビー国王時代のイランのように、欧米とイスラムとの融合をはかった時期もありましたが、ここ40年ほどはイスラム全体が復古主義に回帰し、最もヨーロッパ化したトルコですらイスラム至上を掲げはじめています。
だとすると、イスラムはイスラムで暮らした方がいいのではないか、無理矢理キリスト教国などに移住するより、イスラム世界で生きる方がよっぽど信仰の理想に近づけるのではないか、そう思うのです。
ややもすると、イスラムだろうがユダヤだろうが、なんでも欧米は受け容れなければならないかのような論調がありますけど、生き方が違う人たちに、ウチの社会に合わせろという方が難しいのではないでしょうか。
もちろん、欧米社会に同化するというのなら結構です、だがそれは何百万人という数字にはならないはずです。
ユダヤ人にように、第二次大戦が終了するまで「母国」がなかった人たちと違い、イスラムには帰る国があり家もあります。
まずは自国を建て直し、クルアーンが理想とする世界を創り上げていく、それがイスラムの使命ではないか。
皮肉なことに、若者がISに惹かれリクルートされるのは、理想のイスラム国家を自分たちで作るというお題目であり、それが暴力でしか実現できないという原理主義的な部分です。
これをイスラム自身が打破し、モデルとなるような平和国家を作らないと、ISのような勢力はいつでも何処でも出てくることになります。
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2015年12月11日

税制大綱 自民、正式決定遅らす 軽減税率、官邸主導に不満 首相周辺「覆らず」

11日朝刊2面【総合1】
 2016年度税制改正大綱の正式決定が11日以降にずれ込んだ。17年4月の消費増税時に導入する軽減税率で、首相官邸の主導で公明党に大幅に譲歩しなければならなくなったことへの自民党幹部らの不満が、手続きを滞らせた。ただ、党税制調査会の影響力低下は著しく、税制改正の中身を差し替えるほどの勢いはない。
 「今日をタイムリミットとしてやってきた。一両日中にまとめたい」。10日午前、自民党臨時総務会。谷垣禎一幹事長は軽減税率を巡る公明党との協議終結が近づいていると報告した。
 谷垣氏の表情には複雑な思いがにじんだ。財源4000億円を上限とみて増税時の対象品目を生鮮食品に絞る方針を大きく転換したからだ。当初から加工食品を含めることにし、規模は約1兆円に膨らむ。16年夏の参院選をにらみ、公明党との連立を重視する安倍晋三首相や菅義偉官房長官らに促された結果だった。
 総務会メンバーの評価は割れた。山本一太元沖縄担当相は「選挙に負けたら元も子もない」と理解を示す一方、村上誠一郎元行政改革相は「『首相官邸の印籠が見えないのか』と押し切ることが本当に党内民主主義なのか」と批判。税調前会長で最高顧問の野田毅氏は「大変な混乱が起きる」と警告した。
 10日午後、谷垣氏は都内のホテルで公明党の井上義久幹事長と合意文書をめぐる調整をしたが、わずか20分で終わった。党側の思いをくめば、すんなり合意するわけにもいかない。官邸と党の板挟み状態にある谷垣氏は党本部に戻ると、幹部らとも調整を続けた。
 「幹事長同士の協議を注視したい」。10日午前、自民党税調の幹部会議。宮沢洋一会長が軽減税率を巡る与党協議の状況に触れると、出席者から「当事者意識がなさすぎる」との声が上がった。
 宮沢氏ら税調幹部は公明党との協議をまとめられず、軽減税率問題を幹事長に委ねた。税の専門知識に通じ、難しい調整をまとめ上げることで一目置かれてきたのがこれまでの自民党税調だ。それを放棄すれば求心力は著しく低下する。
 16年度税制改正では法人実効税率引き下げも官邸と経団連が主導して決着した。大綱を了承した10日の税調総会の出席者は例年より少数で、税調幹部の一人は「こんなに影響力がなくなってしまったのか」と嘆いた。
 官邸や公明党は動じていない。首相周辺は「官邸の指示は簡単には覆らない。流れは変わらない」と明言した。公明党の山口那津男代表は10日午前の記者会見で「かなり協議が詰まっている。進展に期待したい」と余裕の表情をみせた。大綱決定の足踏みは、一部の自民党幹部のガス抜きのため、と公明党側はみる。


かつて、自民党税制調査会(税調)と言えば、総理総裁ですらアンタッチャブルな存在でした。
税のプロである自民党ベテラン議員をインナーと呼び、旧大蔵省主税局と二人三脚で日本の税制を決めていく、そこには党幹部どころか内閣すらも議論に入れませんでした。
小泉内閣の時でしたか、形骸化していた政府税調をテコ入れし、党税調に対抗させようとする試みもありましたが、その後、政府税調の動きは再び低調となります。
しかし、党税調は何も悪いことばかりでなく、独自の調査によって広く普く税の問題について国民からの声を聞き取り、それを総合的に判断して税制に反映させていこうという仕組みが働いていました。
従って、党内組織であるにも関わらず、内閣や党からの政治的要求を「素人の戯れ言」として撥ね付けることが多々あり、まさに超然勢力たる存在です。
税制を主導する主税局にとっては、税調という無敵の盾があるのですから、最強の布陣だったと言えます。
その税調会長の首を安倍首相は野田毅氏から宮沢洋一氏すげ替えた、これですら自民党開闢以来の大ニュースなのに、その税調の反対を押し切ってまで公明党が主張する軽減税率を導入しようとしている、おそらくシャウプ勧告以降では、日本の税制決定プロセスにとって驚天動地な出来事だと思います。

「公平・中立・簡素」、税の三原則と呼ばれていますが、そう簡単なお話ではありません。
そもそも、消費税のような間接税は、誰もがする「消費行為」に対して一定の税率が掛けられるのですから、最も公平であり、中立であり、簡素であります。
だが、消費税特有の所謂「逆進性の緩和」とか「痛税感の緩和」というのに対策を施そうとすると、どうやっても三原則を崩すことになります。
だったら、今の税率のままでいいだろうと言う議論もありますが、現行の税制にしても「益税」など公平性に欠けている点は否めません。
つまり、何をやっても誰もが納得するパーフェクトの制度にならないわけで、何か対策すれば何か瑕疵が出るという具合にトレード・オフの関係だと思うのです。
ですから、緻密な税理論で構築してきたのと違い、消費税は極めて「政治的な税」だと言っていいでしょう。
しかも、先進国の税収入にとって間接税が大きな割合を占めるに至り、すでに「税のプロ」ではなく「政治のプロ」の出番が今は求められているのです。

今回の消費税を巡る一連の議論で大変興味深いのは、当初、税収の目減りが少なく「逆進性の緩和」という低所得者対策となる税額控除を自民党税調が言い、増税によって再びリセッションに入ることを懸念し、軽減税率による「痛税感の緩和」というマクロ経済対策を公明党が言っている所です。
更に、自公が軽減税率で方向性を一本化した後も、対象品目について自民党は財政規律を盾に、公明党は軽減効果を盾に議論が続きます。
公明党の言う対象品目の拡大とは、実質的に毎年の減税、あるいは財政出動するのと同じことであり、それが4000億円では効果が足りず1兆円だという主張なのです。
1兆円の減税と考えれば、凄いことを言ってるわけです。
本来なら、自民がマクロ経済による拡大路線、公明は財政負担の少ない低所得者対策でしたが、これでは立場と主張が全く逆でしょう。
巷間、安倍首相が公明案を強力に後押ししているのは、公明党からの選挙協力欲しさだからだとされてますが、それは所与のこととしても、やはり首相も増税時の再リセッションを懸念しているからだと思います。
「アベノミクス」が安倍政権の原動力である以上、次の増税では前回の轍を踏まないという公明党の主張には説得力があります。
posted by 泥酔論説委員 at 11:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする