2015年11月21日

十年宰相メルケル氏の試練

21日朝刊19面【マーケット総合2】大機小機
 テロリストの卑劣な企てに屈したくはないが、パリの惨劇に人々のこころは揺れる。生物兵器をつかった新たな襲撃が公然と警告され、外出や旅行の手控えがクリスマスの迫る欧州の景気を冷やしかねない。訪日客消費にわく日本経済に余波が及ぶ懸念もある。
 ギリシャ危機、中東からの難民の流入、ドイツ自動車最大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正。難題続きの欧州はパリ同時テロという新たな一撃をうけた。あす22日で就任10年となるメルケル独首相にもずしりと重い課題になる。
 「インディスペンサブル・ヨーロピアン(欠くべからざる欧州人)」。英エコノミスト誌は今月、同氏の巻頭特集を組んだ。ドイツに辛辣な英メディアすら彼女を持ち上げるのは欧州政治のお寒い現状を映す。
 テロの標的フランスのオランド大統領は経済不振で強いリーダーたり得ない。欧州連合(EU)の統合路線に異議を唱えるキャメロン英首相は「残留か離脱か」の国民投票の準備に没頭する。ハンガリー、スロバキアらに加え政権交代したポーランドが難民受け入れ分担に反対し、東西のあいだで摩擦が起きている。
 「難民を歓迎する」と宣言して喝采を浴びたメルケル氏自身も想定を超す大量の難民流入で支持率低下の憂き目に遭う。テロで市民の意識は一段と内向きになりかねない。国境管理を強化する動きは、自由な移動の原則と相いれない。
 欧州経済を辛うじて支えるのはドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁の話術によるユーロ安マジックだ。来月の追加金融緩和は濃厚だが、カンフル剤も長くはもたない。テロによる萎縮→経済の停滞→失業の増加→難民への拒否反応という連鎖が起きればテロリストの思うつぼだ。日本型のデフレも現実味を帯びる。
 「強すぎる帝国」と皮肉られたドイツが一肌脱ぐ時だ。内需を増進して周辺国の苦境を和らげ、欧州統合を後戻りさせない決意を実行に移す。シュレーダー前首相の「痛みの改革」による経済復調の恵みを10年満喫してきたメルケル氏にとって厳しい試練になる。
 排ガス不正で10月のVW車の日本販売は前年から半減だというが、地元欧州では小幅減にとどまる。ドイツの没落をはやすのは早合点だ。彼女たちの底力はこれから試される。(仙境)


どうでしょうか、やはりドイツは苦しい立場にあるのだと思います。
結局、東西統一とEU統合の経済的恩恵を一番享受したのがドイツだったわけで、「一人勝ち」と言われるのも仕方ありません。
しかし、ギリシアの経済危機において最も厳しい対応をしたのがメルケル首相でしたし、「難民」問題でEU域内の受け容れを強く主張したのも彼女でした。
当然のことながら、「俺達はドイツじゃないんだ」という怨嗟の声もあるでしょう、西ヨーロッパと言っても決して一つではなく、民族も違えば歴史も文化も言葉も違います。
まして、政治的、経済的事情も様々であり、ドイツがやってるからと言って、それを押し付けないで欲しいということです。
これではドイツ帝国支配下の植民地だ、という批判も宜なるかなでして、まして連立政権が多い欧州で10年も首相の座を維持しているメルケル氏はさながら帝国に君臨する女帝に擬えるのでしょう。
そのような情勢で、ドイツの屋台骨を支えているフォルクスワーゲンが不正ソフト問題を起こし、難民に紛れて入り込んだテロリストがありということで、メルケル氏にも逆風が吹き始めたわけです。
心なしか、最近の報道でメルケル首相の影が薄いのも、こうした逆風のせいではないかと思いますが、そうは言っても今もEUを引っ張っているのはドイツに他なりません。
ただ、仙境氏が言うようなメルケル首相が「ひと肌脱ぐ」のか、ここは大いに疑問があります。
実際、EUと言うかドイツにとって重要な相手である中国経済が、あまりよろしくない状況だと言わざるを得ません。
ドイツは、EU内の安いコストで生産した製品を中国で売って稼いできたというビジネスモデルだったのですが、中国市場の減退によって需要が落ちてきています。
例えば、問題のフォルクスワーゲンもここ数年で急激にシエアを伸ばしたのは、アジア太平洋地域すなわち中国マーケットでの販売であり、欧州マーケットに迫る400万台を越える勢いでした。
ところが、中国経済の減速によりビジネスモデルが崩れつつあり、そこに不正ソフト問題が重なったのですから、屋台骨に大きな穴が開いてしまったということになります。
ドイツ経済がおかしくなれば、それはEU全体にも広がりますし、ドイツの力の源泉が好調な経済だったのですから、これが崩れればメルケル首相の力も衰えることになります。
ギリシアも経済危機が解決したわけでなく、EUやECBが追い貸しして破綻を先に延ばしているだけなので、これも時限爆弾なのです。
果たしてドイツに「ひと肌脱ぐ」だけの余裕があるのでしょうか、と思うところです。


posted by 泥酔論説委員 at 17:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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