2015年10月26日

「難民危機」と欧州経済

26日朝刊16面【景気指標】ブリュッセル=森本学
 「難民危機」に揺れる欧州には今年、ドイツだけでも年間150万人もの難民が押し寄せるとの推計が出てきた。2014年の同国の難民申請件数(約20万人)の7倍強に当たり、日本で言えば神戸市や福岡市などの人口に匹敵する。しかし弱々しい回復が続く欧州景気に大きな打撃を与えるかというと、有力エコノミストたちの見方は違うようだ。「ユーロ圏の15年下期の実質国内総生産(GDP)を0.2%押し上げる」。独ベレンベルク銀行でチーフエコノミストを務めるホルガー・シュミーディング氏は景気へのプラス効果を強調する。短期的には財政刺激の効果をもたらすからだ。
 17日、独西部ケルンで衝撃的な事件があった。市長選挙の投票を翌日に控えた同日、有力候補が独国籍の男に襲撃され、大けがを負った。独メディアによると男は捜査に対して「外国人が仕事を奪う」と、独政府の寛容な難民受け入れ策を批判している。難民や移民に雇用を奪われる――。排外主義の根拠になりがちな典型的な発想だが実際はどうか。ベルギーを拠点とする大手シンクタンクのブリューゲルはブログで「既存の研究文献を再点検したら、移民の影響は小さいか存在しないとの結論がほとんどだった」という事例を紹介。むしろ移民らが社会に溶け込んで高齢者や子どものケアに携われば、働く女性の後押しになる、との分析もあるという。
 もちろん経済だけで語れないのが難民問題だ。流入を制御できない現状が続いて混乱に陥れば社会不安を高める。難民に認定されても定住先の国に溶け込めなければ、就労はままならない。難民危機を欧州の潜在成長力を高める好機に転じられるのか、それとも景気のリスクになってしまうのか。
 経済協力開発機構(OECD)は「難民をうまく社会に統合できるか次第だ」と答える。9月にまとめたリポートで、語学の習得や就学の支援、難民の雇用拡大に向けた雇用主との協力などを求めた。難民問題を新たな「経済危機」に転じさせないカギは欧州各国の政治の手にまだ残されている。


「難民」なのか、「移民」なのか、これが問題だと思うのです。
1951年の「難民の地位に関する条約」では、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々が「難民」だと定義されています。
要するに、自国内の迫害から逃げる人を「難民」と呼び、一方で自由意思に基づき平和的に生活の場を外国に移し定住する人のことを「移民」と呼ぶようです。
「難民」の場合、あくまでも緊急避難的な一時移住であり、自国が平和を取り戻せば帰国するのだという理解です。
ところが、いま欧州で起こっている「難民問題」とは、中東やアフリカから生活の場を欧州に移し定住する人を指していると言っても間違いないでしょう。
帰国するつもりがあれば、隣国に避難するのが常なのに、遠くドイツや北欧にまで「難民」となるのは、明らかにそこで定住しようという事に他なりません。
従って、この問題を「移民問題」だと捉えたほうが、正確に事態を説明できると思います。
しかし、なぜ「移民問題」だと言わないのか、「移民」となれば厳格な審査と制限が課せられるわけで、到底何十万人、何百万人もの人を受け容れられません。
そこで、彼らは「難民」なんだという建前にして、人道上の観点から受け容れのハードルを下げているのだと思います。
そこまでドイツなどが妥協しているのは、ナチス・ドイツ時代のユダヤ人迫害の反省からだけでなく、「移民」を産み出した元凶である「アラブの春」を欧州が主導したという自責の念からではないか、そう考えるのです。

「定住するつもりで、ここまで来た」という移住者たちと、「一時的な避難だから、早く帰国してね」という欧州政府側、この矛盾が早晩顕在化してきましょう。
地域コミュニティも職場も、いつまでも移住者たちに居られては迷惑だ、あるいはコミュニティ自体が移住者で占められてしまう、特にドイツ以外の国は失業率もまだ高く、仕事の奪い合いになっていくのでしょう。
反面、かつての植民地アルジェリアからの移民を多数受け容れたフランスのように、生産年齢人口と出生率が高まり、経済を牽引しているというのも事実です。
だが、そのフランスでも社会とイスラムとの折り合いをつけるのに相当苦労しており、また治安悪化も問題となっています。
極右政党とされる国民戦線が台頭してきているのは、フランス国内におけるイスラムとの対立が背景にあるのです。
我が国でも「難民」はともかくとして、「移民」については少子高齢化対策として検討する必要はありますが、プラス面とマイナス面は必ず存在します。
そして、政治的、社会的、経済的にも解決はそう簡単な話でありませんし、今般の「移民問題」も長い将来にわたり欧州に大きな影響を与え続けることは間違いありません。


posted by 泥酔論説委員 at 10:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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