三井不動産グループが横浜市で販売したマンションが傾いた問題で、建物と地盤を固定する杭(くい)打ち工事のデータ改ざんが明らかになった。なぜ虚偽データの使用が見過ごされたのか。下請けへ段階的に仕事を発注し、業務が細分化された業界特有の多層構造が、チェック体制を甘くした可能性がある。
「最近は玄関のドアできしむ音が聞こえた。(騒動によって)目減りする資産価値をどう補償してもらえるのか気がかりだ」。傾いた棟に住む男性は不安を隠さない。
2007年12月に完成した問題のマンションは4棟で構成し、計705戸ある。このうち傾いたのは1棟。建物の両端を比べると最大2.4センチメートルの差がある。昨年11月、住民らが廊下の手すりの高さに差があることに気付いた。
問題は杭の工事にあったとされる。マンションを販売した三井不動産レジデンシャルなどによると、一部の杭は地下十数メートルの「支持層」と呼ばれる固い地盤に届いていなかった。なぜこうした事態が起きたのか。
杭の工事はまず、敷地の複数箇所を掘削調査して地盤を調べる。今回は、全体の工事をとりまとめる「元請け」の三井住友建設が専門業者に頼んだ。この結果を基に、三井住友建設が打ち込む場所や数、長さや太さを決めて473本の杭を手配した。そして、下請けの旭化成建材(東京・千代田)が杭打ち工事をした。
杭を打つ全ての場所で掘削調査をするわけではないため、実際に工事を始めてみると想定より支持層が深くにある場所もある。「掘ってみなければわからない」(三井住友建設)のが実態だ。準備した杭の長さが足りない事態は十分あり得る。
旭化成建材の担当者がその事実に気がついたとみられるのは、杭を打ち込むために、ドリルで地面に穴を開けた際だった。このドリルにかかる土の抵抗値を見ると、実際に支持層に届いているかどうかが分かる。抵抗値は波形のデータで記録する。
杭が短すぎるとわかったのに、長い杭を手当てするのではなく別の杭のデータを転用したり、加筆したりしてしのいだもよう。38本について虚偽データを使い、支持層に届かない杭が発生した。
さらに16日、新たなデータの不正利用が発覚した。ドリルで開けた穴には杭の先端と地盤を固定するため、セメントを流し込む。このセメント量のデータも改ざんしていた。つじつまを合わせるため偽装の連鎖が広がった可能性がある。セメントが足りなければ、本来の強度を得られない。
一連の杭打ちは2人1組で作業する。一人は杭を打ち込む建機を操縦し、もう一人はデータを管理する。この管理者がデータを改ざんしたもよう。16日夜に会見した旭化成建材の前田富弘社長は「断定はできないが改ざんはミスではなく悪意を持って施工不良を隠そうとした」と説明した。
マンションの工事は大まかに、杭を打ち込むなどの基礎工事、柱やはりなど骨組みを造るく体工事、内外装を造る仕上げ工事に分けられる。関連する会社は数十社にのぼることも珍しくない。
今回の杭打ち工事は、1次下請けが半導体製造装置を主力とする日立ハイテクノロジーズ。2次下請けが旭化成建材だった。三井住友建設は、日立ハイテクノロジーズに工事の進捗状況の確認や、安全の確保を任せていた。同社が間に入ったことも、三井住友建設の旭化成建材に対するチェックの目を甘くした可能性がある。
いわゆる下請けについて言えば、ものづくりやサービスを提供する上で、何でも自社でやってるなんて企業は皆無であり、下請けによる問題発生は何処にだって起こりうる話なのです。
今回のは、住宅という個人にとっては大きな買い物であり、生活そのものであったことに加えて、700戸という規模が社会問題化したのだと言えましょう。
性善説によって施工を任せているわけであり、数値を見れば支持層まで杭が届いてないから杭を足そうとか、セメントの流量が足りないからもっと流そうというためのデータであって、誰もがそれを作文しているとは思いません。
まして地中のことです、もし傾きに住民が気が付かなければ、何十年後かに建物を解体するまで判らなかったかもしれません。
施工した方にもいろいろな理由があるのでしょう、メディア的には「コスト要求が厳しかった」とか「納期管理が厳しかった」という企業=悪、作業者=被害者みたいな安易な構図をつくりがちですけど、それは耐震偽装事件の時だって、デベロッパーが建築士に苛烈なコストダウン要求をしていたとかで批判されていました。
しかし、真相は建築士の能力不足が原因であったわけですし、今回のも作業者に問題があるのではないかと思うのです。
いくらコスト削減だ、納期厳守だと言ったところで、杭やらセメントの継ぎ足し分なんてのは大したものじゃありませんよ。
むしろ、そうした手抜きによる欠陥を出す方が遥かにマイナス面が大きいことは、過去の事例を並べるまでもなく、施主からしたらなんでこんなバカなことをと忸怩たるものがあるでしょう。
施主や施工に問われるのは管理責任であり、だがこうした現場での偽装は見つけにくいというのも事実です。
この物件でも、当初は傾きの原因がよく分からないため、住民への対応がおざなりになっていたと言われてます。
ボーリング調査してはじめて、杭が支持層に届いてないことが判明し、施工の記録を検証し始めたわけで、ここまでしないと原因が特定できなかったのです。
僅かな手抜きのために、全棟建て替えなどいう大事になったばかりか、700世帯もの人々の生活まで変えてしまう、こうした重大な責任を負っていることを現場に徹底していくしかないでしょうね。