ロシアがシリアでの軍事行動をエスカレートさせている。過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)掃討の名目で同国のアサド政権を支援するロシアは7日、カスピ海から1500キロ離れた標的に初めて巡航ミサイルを発射し、戦力を誇示した。米国はロシアとの軍事対決を望んでいないと踏んでおり、強硬策により、アサド政権の退陣を求める米欧や周辺国に圧力をかけている。
ロシアメディアによると、同国軍が発射した巡航ミサイル「カリブル」はソ連時代のミサイルの改良を重ね、2012年にカスピ海小艦隊に配備された。射程は2600キロに及び、誤差3メートル以内の精度を誇るという。黒海艦隊にもすでに配備したもようだ。
ロシアはミサイルの精密さで米欧に対する示威効果を狙ったと見られる。対イラク戦争などで巡航ミサイルを多用してきた米国のほかは、誘導ミサイルの精度を誇るのは英国軍などに限られるとされてきたが、ロシア軍の技術が上がっていることを示した。
ロシア国防省はミサイルが上空を通過するイラン、イラクと事前に調整したとも発表した。カスピ海小艦隊が対中東で戦略的な役割を果たしうることも誇示した。
ロシアは攻勢を強めている。英国を拠点とする人権団体は7日、ロシア軍の空爆と連携してアサド政権の地上部隊が反体制派に対する大規模な作戦を実施したとの見方を示した。レバノンのシーア派民兵組織ヒズボラやイランの革命防衛隊がアサド政権側に加勢しているとの情報もあり、ロシア、イラン、アサド政権が連携しているとの見方が強まっている。
オバマ米政権はロシアの攻撃の大半がISではなく、米軍が支援する穏健な反アサド勢力が標的になっているとの批判を繰り返すだけで、ロシアに対抗する動きはない。ウクライナへの軍事介入時と同様に、米軍は介入しないと見てプーチン政権は強硬策に拍車を掛けており、米国の「無力さ」を露呈することに注力しているように見える。
ロシアが、初めて巡航ミサイルを実戦投入した日となりました。
帝政ロシア時代からカスピ海に配備されているこの湖水艦隊の旗艦は、基準排水量1500トンクラスの小さな警備艦だそうで、この艦から射程2600キロ程度の巡航ミサイルを発射したと言うことです。
シリア内のISへの攻撃なら、黒海艦隊が地中海まで進出してミサイル発射すればとも思うのですが、ロシアはイラン、イラクの上空通過という「実績」を作りたかったのではないでしょうか。
プーチン大統領とすれば、ロシア単独の攻撃ではない、シリアからの要請を受け、周辺国も協力しているという「集団的自衛権」の建付けができたわけです。
アメリカがトルコからの協力を取り付けるまで1年も掛かってるのに対し、ロシアはIS攻撃を表明してから1週間程度でこうした体制を構築したことをオバマ大統領に当てつけてるとも見えます。
もちろん、ロシアが時間をかけて周到な準備をしてきたのは間違いありませんが、国際社会への見せ方としては「レッド・ラインを越えた」と高らかに宣言した割に中東情勢の状況悪化と混迷に喘いでいるオバマ大統領より遥かにスマートです。
アメリカに何らかの戦略や成算や準備があってのことでなく、「正義」だとかの脊髄反射的な反応をしているだけにしか思えませんし、一方ロシアはウクライナやクリミア、シリアの状況をどうやって国益に利するかという、柔道のように上手く相手の力を使っているのではないでしょうか。
こうやって比較すると、言霊信仰ではありませんが「俺が言えば、世界が動く」みたいな脇の甘いオバマ氏と、情勢を分析して着実な戦略を立てる冷静なプーチン氏との違いがよく分かります。
そもそも「穏健な反アサド勢力」というのも、かなり胡乱な勢力のようで、欧米が資金や武器、訓練など軍事支援をしてきても、一向に強くならないどころか、提供されたアセットがISやヌスラ戦線など「敵方」に横流ししているという話もあるぐらいで、ザルで水を汲むどころではないようです。
まるで、日本が中国大陸で割拠する軍閥や国民党を支援しては、事態が泥沼化していく様に似ています。
ロシアはアサド政権を支えるのに本気、アメリカは国内世論を恐れて半身の構え、ドイツ・フランスはロシアと事を構える気は更々ない、するとウクライナ・クリミアと同じようにロシアのプレゼンスがシリアだけでなくイラク、イランにまで波及するでしょう。
欧米が仕掛けた「アラブの春」が、漁夫の利ならぬロシアの国益となるのではないか、こんな情勢判断をしたいと思います。
