野党は安全保障関連法成立を受け、来年夏の参院選に向け協力機運を高めている。維新の党で橋下徹大阪市長に近い勢力が新党に動いて分裂間近になったのを踏まえ、民主党は来週にも維新と協議機関を始動する。共産党は週内にも安保法廃止を旗印に選挙協力を各党に呼びかける。与党に対抗する野党の共倒れを避けるためだが、同床異夢の面も否めない。
橋下氏に近い維新の大阪選出議員らは両院議員総会を近く開くよう求めている。橋下氏や新党の代表に就く見通しの松井一郎大阪府知事らは10月1日に新党結成を正式に表明する方針。党を割る協議を早急に進める必要があるからだ。松野頼久代表は橋下、松井両氏、江田憲司前代表と話し合うことも検討している。
民主党は松野、江田両氏ら維新残留組との協力強化に積極的だ。27日までの今国会閉会後につくる協議機関で、共通の政策集づくりや選挙区調整の検討を進める方針。その後に生活など各党にも協力を呼びかける段取りを描く。
松野氏らは一気に参院選までの野党再編を目指し、民主党執行部に「解党」を促している。
選挙協力の推進に一気にカジを切ったのは共産党だ。19日の中央委員会総会で、参院選や次期衆院選で勝利し安保法廃止を実現する「国民連合政府」構想を発表。呼応する他党と選挙区の候補者調整に応じる。連休明けの24日以降、民主、維新、社民、生活4党に協議を呼びかける。
2009年衆院選の後は基本的に衆院選と参院選で全選挙区に候補の擁立をめざしてきただけに、選挙戦略の大転換だ。民主党の枝野幸男幹事長は23日、横浜市内で記者団に「思い切った提案だと前向きに受け止めている」と語った。
共産党には、安保法廃止の機運を盛り上げるため、秋の臨時国会に廃止法案を提出して他党の協力姿勢を探る案が浮上している。民主党執行部では共同提出に前向きな見方もある。
大きな法案の後には、必ず政局が待っています。
民主党など野党の立場からすれば、今回の「安保国会」で得るところが一つもなかったどころか、中途で維新の党が崩壊したり、次世代の党など野党3党が政府与党に賛成するという「野党共闘」どころのお話ではありませんでした。
厳しい見方ですが、民主党に野党を纏めようという主導力が決定的に不足していたのが原因で、そもそも民主党内部でも安保法案の対案を出す出さないで最後まで意見が分れていたように、彼ら自身の問題なのだと思うのです。
それに対して、共産党が突然「国民連合政府」構想なるものをぶち上げて、野党再編を目指してきたのには驚きました。
共産党と言えば、超然勢力として他党と与しないことを良しとし、野党再編などは「野合」だと冷たく正論を言い放っては、多くのファンを惹きつけてきました。
「確かな野党」などと言う共産党役割論がありますが、「与党を目指す気も可能性もゼロだから、安心して与党批判票として入れよう」という方も多いのではないでしょか。
ところが「確かな野党」という衣を脱ぎ捨てて、あからさまに政権奪取を目標として掲げ、野党を糾合するのだと言い出したのです。
腐っても野党第一党の民主党がいつものように言うならまだしも、こうしたのは「野合」と散々批判してきた共産党が主導してるので、これは彼らなりに本気なのだなと思います。
「国民連合政府」、安保法廃止のためだけに他の野党と協力して選挙に勝ち、政権を取る、廃止したらただちに解散し、総選挙で各党の主張どおりそれぞれが戦えばいい、所謂ワン・イシュー政権というか時限内閣というか、そんな構想のようです。
なぜ、ワン・イシューなのかと言えば、政策で合意できるのが「安保法廃止」一つしかなく、あとはバラバラだということの裏返しなのですけど、これはこれで無責任な話です。
政権ってのは、何も一つのテーマだけで運営しているわけでなく、例え短時間であろうとも行政が滞って困るのは国民です。
第一に、各メディアのアンケート調査でも、安保法の必要性を認めている有権者は多く、廃止を望んでいるのは僅かでしかありません。
廃止をテーマに何年も共産党と一緒になって政権取るまで戦えるのか、これは民主党のみならず他党にとっては難しいでしょう。
岡目八目でみれば、「国民連合政府」とやらは脇に置いといて、次の参院選で選挙協力しましょうよ、つまり選挙区調整して、前回の衆院選のように共産党が全選挙区に候補を擁立するようなことは止めて、野党で票を分けあいましょう、みたいなのが民主党の本音なのかなという気がします。
確かに、民主党に政権交代した2009年の衆院選で、民主党は共産党と選挙区調整し大勝利をおさめ、逆に共産党に全選挙区で擁立された前回は大惨敗しています。
野党の得票を合計すれば、自民党と公明党より多いという単純計算が、こうした本音の支えになってるわけで、「安保法廃止」だなんてのは単なるお題目に過ぎないということがよく分かります。
そう考えると、共産党は真面目本気な戦略転換、民主党は美味しい所を取れるならいいですよという党利党略、という形がみえてきます。
しかし、なぜ共産党が「確かな野党」を捨ててしまったのか、それは国会前のデモに原因があると考えています。
ここまで共産党主導の運動が盛り上がったのは久しぶりでしょうし、若者が呼応してくれたのがとても頼もしく思えたことでしょう。
デモなんてのは、動員された年金暮らしばかりというのが見慣れた光景でしたが、大学生やママさんたちが深夜まで元気に騒いでいるのを見て、共産党の人たちも昔を思い出して若返った気持ちになった。
だが、これは幻想ですよ。
運動の中核は相も変わらずお年寄りですし、テレビで映ってることが全体を表しているわけでもありません。
国民の関心事は、日々の生活であり、それに対応する政策なんです。
「安保法」と言っても、実感もありませんし、まして「戦争」とか「徴兵制」とか何億光年も遠い世界のことだという話です。
共産党を支持する理由の多くは、防衛は防衛でも生活防衛の分野で弱者を代弁するという立場だからであり、これもまた他の有権者とそれほど問題意識に差はないと思います。
デモによって世論が味方してくれている、風が吹いているというのは実態と乖離しており、それを基に「国民連合政府」構想なるものをぶち上げたとしたら、共産党も冷静さを欠いているというか、焼きが回っているというのか、と言わざるを得ません。