2015年11月25日

トルコがロシア軍機撃墜 シリア国境「領空侵犯」 ロシアは非難

25日朝刊1面 イスタンブール=佐野彰洋、モスクワ=田中孝幸
 トルコ政府は24日午前(日本時間同日午後)、南部のシリア国境付近で、領空を侵犯したロシア軍機を撃墜したと明らかにした。ロシア国防省は撃墜されたのはロシア軍の戦闘爆撃機スホイ24と確認した。(関連記事総合2面に)
 プーチン大統領は同日、「背後から刺されたようなものだ」と述べ、トルコを強く非難した。「ロシアとトルコとの関係に重大な結果をもたらす」と警告した。
 米国率いる有志連合と、ロシアがそれぞれ進めるシリア領への空爆が十分な連携を欠くなか発生した撃墜事件で、トルコが加盟する北大西洋条約機構(NATO)とロシアの関係が一段と緊張する恐れがある。過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)掃討作戦にも影響を及ぼしそうだ。
 トルコ側の説明によると、南部ハタイ県のシリア国境付近でロシア軍機がトルコ領空を侵犯した。複数回の警告にもかかわらず退去しなかったため、交戦規定に基づき警戒飛行中のF16戦闘機2機が撃墜したという。米軍もトルコが警告を発したことを確認した。一方、ロシアは領空侵犯はなかったと主張しており、トルコ側の説明と真っ向から対立している。
 ロイター通信によると、NATO加盟国による旧ソ連やロシアの軍用機撃墜が確認されたのは1950年代以来初めて。撃墜されたロシア軍機からパラシュートで脱出したとみられる操縦士2人の安否は不明だ。


このタイミングです。
オランド大統領はワシントンでオバマ大統領を説得できず、記者会見もアサド政権の存続を認めないという原則論で終始しました。
オバマ氏は原理主義者みたいなものですから、「レッド・ライン」モードに一度入ってしまうと、そこから抜けられないのでしょう。
安全保障担当補佐官のスーザン・ライス氏もオバマ氏と似たような考えの御仁ですから、ホワイトハウスの中枢ではISよりシリアの政権交代しか関心がないようです。
国際面では、「(米仏両大統領は)ロシアと軍事面で協力する条件についても協議したもようだ」と二人の会談を報じてますが、具体的な提案があったとは思えません。
手ぶらでプーチン大統領を訪問する、オランド氏の心中や如何にと思いますが、そこにダメ押しのようなトルコの介入です。
フランスとすれば、踏んだり蹴ったりでしょう。

ISを巡る情勢分析は、国際政治とは何であるかを知るのにちょうど良い教科書だと思います。
ご存知のとおり、アサド政権を弱らせるためにサウジや欧米の支援によってつくられたのがISの中核だと言われています。
特に、隣国トルコは「強すぎるシリア」の存在が好ましくなく、昔からシリア領内のトルコ系民族を使って妨害工作をしてきました。
こうした「反政府勢力」と呼ばれるトルコの息がかかっている連中に加えて、更にトルコ軍情報部はISへの資金提供などを通じて、アサド政権を追い詰めてきたのです。
さながら、アフガニスタンの混乱こそ国益とするパキスタンが軍情報部を使って、タリバンやアル・カイダを育てたように、トルコもシリアで同じことをやっています。
従って、トルコにとって対IS作戦と言うのは表向き歓迎しているようで、内実は「余計なことしてくれるな」というものであり、だから米軍にもトルコ領内の基地を長らく使わせてこなかったのです。
それでも今年に入ってから、国際世論に押されてトルコも対IS作戦に参加を表明するのですけど、彼らが空爆しているのは専らシリア領内で反トルコ活動をしているクルド人勢力というわけで、「ロシアはISでない、反アサド勢力ばかり攻撃している」というトルコ首相の言い分も何だかなあという所です。

転換点は、ロシア旅客機の爆破事件とパリ同時テロ事件からです。
プーチン大統領は本気、オランド大統領も連合軍総司令官気分で本気モードに入ってきた、全欧州は露仏の勢いに押されて従うだろう、そうなるとアメリカもどうだか分からない、この流れに一石を投じたかったのがトルコのエルドアン大統領だったと思います。
確かに、いままでもロシア軍がトルコ上空を通過していたのは事実でしょう、しかし先日のТu-160爆撃機やカスピ海からの巡航ミサイルなどは、トルコ領内を避けるようコースに気を使ってましたね。
敵対国でなく有志連合じゃないかという気持ちは、ロシア側にあってもトルコ側にはなかったということです。
ただ、トルコのアンタルヤで開催されたG20において「この中にISへ協力している国がある」というプーチン大統領の発言は、明らかにトルコを指しているものだし、ホスト国をわざわざ非難したのは彼なりに何かを感じていたのかもしれません。
問題なのは、トルコ軍が領空侵犯を理由としてロシア機を撃墜したこと以上に、シリア領内のトルコ系民兵が脱出したパイロットやレスキュー部隊まで攻撃して殺害していることで、トルコ軍と民兵との間に最初から計画が出来ていたのではないかという疑いです。

もしそうであるなら、これは偶発的な事件でなく、謀略だと言うことになります。
謀略の目的は、欧米露による「連合軍」化の妨害であり、中東におけるロシアの影響力を削ぐものであり、それが結果的にISを救済し、アサド政権を断つということだと思います。
もう一つ、トルコが領空侵犯の判断を早々にNATOに持ち込んだのも大変手際がいい。
フランスがわざわざ集団的自衛権の発動をEU条項に依ったのは、もともと東側陣営に対する集団安全保障体制のNATOだとロシアが嫌がるとの配慮からでしたが、いくらNATO加盟のトルコだからと言ってそこに持ち込めば、EU諸国だけでなくアメリカをも味方につけることができるとのヨミがあったからでしょう。
このヨミもピタリと当たり、オバマ大統領は「ロシアは外れ者」だと批判するし、「撃墜されたのはロシアなのに、まるで撃墜したかのようになっている」とロシアがボヤくことになります。
撃墜一つで形勢はロシアに不利となってきましたが、さて、失意のオランド大統領をモスクワで待ち受けるプーチン大統領は巻き返すことができるのか、これが今週の注目点です。
現代にあっても、こうした謀略の限りを尽くしてまで国益を守るのが国際政治だということですね。
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2015年11月24日

テロと憎悪の連鎖を断ち切るには

24日朝刊2面【総合・政治】社説
 パリ同時テロから10日あまりが過ぎた。卑劣なテロへの怒りは犠牲者への追悼とフランスへの連帯の輪となり世界に広がっている。
 近代共和制は18世紀のフランス革命で幕を開けた。多くの血を流してつかみ取った自由や平等の価値観は現代社会の土台である。これを踏みにじる理不尽な暴力を許すわけにはいかない。
 イスラム過激派に国際社会は結束して立ち向かわねばならない。同時に忘れてならないのは、なぜイスラム教の過激思想が生まれ、勢力を広げるのか。根っこにさかのぼって対処することだ。
(中略)
 第1は目先の脅威であるISの封じ込めであることは言うまでもない。ISの掃討作戦で米国を中心とする有志国連合とロシアに歩み寄りの機運が生まれている。シリア内戦の外交解決に向けた協議も動き出した。これらを成果につなげたい。情報交換や資金源を断つ連携を深めることも必要だ。
 第2は中東に暮らす人々の生活水準を底上げし、社会環境を改善する息の長い支援だ。若者の過激思想への傾斜を食い止めるには増大する人口を吸収する雇用の創出や産業の育成が必要だ。中東に原油輸入を依存する日本はこの分野で積極的に役割を果たすべきだ。
 シリアのほかにも、リビアやイエメンでも内戦や混乱が長期化し事実上の無政府状態が続く。国際社会が和平の実現を後押しし、国を逃れた人々が母国に帰還できる環境を整えることが大切だ。
 第3は共存への理解だ。欧州は積み上げてきたイスラム社会との融和の努力を止めてはならない。難民に門戸を閉ざすことだけがテロへの処方箋ではないはずだ。市民どうしやイスラム教とキリスト教の宗教指導者など、あらゆる階層での対話を強化すべきだ。
 日本で暮らすイスラム教徒も増えている。異なる宗教への理解と寛容を身につけることの大切さは欧州だけの問題ではない。


「ISの問題を考える時、2011年に中東で始まった民主化要求運動『アラブの春』の失敗を見落とせない。長期独裁政権が相次いで倒れたが、人々が思い描いた安定は訪れなかった」、と社説子も欧米が進めた中東アフリカ政策の失敗を認めています。
イスラムにはイスラムの政治体制があり、欧米の言う自由民主主義が彼らに適していなかったということです。
欧米流の自由で民主主義でなければ、それは後進国だという「正義」が罷り通っていたわけで、それが間違いであったことは誰の目にも明らかだと思います。
同じ自由民主主義であっても、その国、その民族でローカライズされて適合していくものであり、欧米から見ればそれが「長期独裁政権」だと非難しようが、外から押し付けたものでは上手くいかないのです。

社説子は、テロと憎悪の連鎖を断ち切るにはと題し、まずISの撃滅、次に中東の安定化、そしてイスラム教徒とキリスト教徒の対話と共存という3点を提案しています。
いかにも社説らしい、誰からも文句は言わせないぞ的な感じですけど、1番目はもう当たり前で、まずは目の前の火を消してからねというお話で、3番目は単なる建前論に過ぎません。
重要なのは、2番目にある内政の安定化じゃないですかね。
「戦争というものは、ほとんどがどこかの国内の政治的事件を契機として始まっています」(岡崎久彦著『戦略的思考とは何か』)とされるように、ISもイラクとシリアの両国内の混乱から派生したものであり、まずはこの安定がなければ「テロと憎悪の連鎖」は断ち切れないと思うのです。
そして安定のためには、強い中央政府が必要であり、それが欧米のスタンダードからすれば「独裁政権」であろうとも戦争には代えがたいということです。
アメリカにしても、お膝元の中南米政策では「独裁政権」を黙認していますし、それが地域の安定にとって必要悪だからという割り切り方をしています
大国というのは、こうしたダブルスタンダードでなければ、グローバルに政治を展開できないわけで、その点でオバマ大統領はナイーブ過ぎたのです。

先日も書いたように、オランド仏大統領が対IS作戦で行脚を始め、まずイギリスのキャメロン首相と会談し、早速軍事的協力を取り付けました。
26日はワシントンでオバマ大統領、その後、ベルリンでメルケル首相と会ってから、モスクワに飛んでプーチン大統領というスケジュールだそうで、さながらフランスが連合軍総司令官のような姿になっています。
フランス国内的には、テロ情報を全く掴んでなかった治安・情報当局に重大なミスがあったのですから、責任論が発火する前に「剛腕大統領」のイメージを作っておこうということなのでしょう、これはこれで大いに結構なことです。
問題は、シリア内政にどこまで連合軍がコミットしていくのか、もっと言えば、アサド政権をオバマ氏が認めるのかどうかに懸かっています。
オバマ氏にプラグマティズムを説けるかどうか、それがオランド氏の手腕だと思います。
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2015年11月23日

大阪を巡る混乱に終止符を

23日朝刊【総合・政治】社説2
 「大阪都」構想への再挑戦を掲げた地域政党「大阪維新の会」が知事と市長の大阪ダブル選で勝利を収めた。「都」構想は5月の住民投票では否決されており、何が民意かが見えにくくなった。大事なのは税金の無駄遣いをなくすという原点に帰ることだ。大阪を巡る混乱に終止符を打ってほしい。
 今後、大阪維新は「都」構想の実現を目指すことになるが、府議会、市議会とも過半数を占めていない。自民、公明、共産各党などと対立を続ければ堂々めぐりの議論が続くことになる。
 自公共とも府と市が同じような施設づくりをする二重行政をよしとしているわけではない。大阪維新は敵を徹底的に批判する政治手法で人気を集めてきたが、どうすれば合意形成ができるかにそろそろ目を向けるときだ。
 大阪維新を立ち上げた橋下徹氏は来月の市長任期切れをもって政界から身を引くと明言してきた。代表を外れたら党運営への発言は慎み、二重権力状態になるような振る舞いは避けるべきだ。政治にかかわり続けるならば、引退発言をきちんと撤回するのが筋だ。
 それにしても構図のわかりにくい選挙だった。表向きは知事選も市長選も自民党と大阪維新の事実上の一騎打ちだった。
 その一方で安倍政権中枢の菅義偉官房長官が大阪維新の松井一郎知事と告示直前に会談するという出来事があった。安倍政権打倒を訴える共産党は自民党候補を全面支援し、国政与党の公明党は自民党と組まずに自主投票だった。
 国政選と地方選で政党の組み合わせが違うことや、党本部と地方組織の思惑がずれることは珍しくない。が、これほどいろいろな要素が絡むと大阪の有権者も何を基準に投票してよいのか迷ったことだろう。選挙結果が安倍政権に及ぼす影響も即断できない。
 はっきりしたのは、大阪維新には地元で根強い支持があることだ。「都」構想一辺倒でなく、国政の第三極として何を目指すのかを示す責任がある。


一口に「民意」と言いますが、よく分からない所があります。
社説子も「構図のわかりにくい選挙」と素直に解説のし難さを白状してますが、大阪の「民意」は府市改革>橋下維新>非維新というプライオリティなのかもしれません。
政治とは、よりマシな方を選ぶ作業だと言われてますが、府市の改革は都構想でないにしても非維新にはできないというのが「民意」なのでしょう。
都構想住民投票否決で政治的に死んだと思われ、維新の党分裂で縮小均衡に陥っていたのに、昨日の府市長選で復活させてしまう、「民意」はジェットコースターのように上下します。
橋下維新にはいろいろ不満はあっても非維新よりマシということで、むしろこの「民意」を府知事と新市長がどう受け止めるかが最も難しい部分じゃないかと思うのです。

「代表を外れたら党運営への発言は慎み、二重権力状態になるような振る舞いは避けるべきだ」、これは八百屋で魚を売ってくれと言ってるようなもので、市長を辞めた橋下氏は大阪行政への介入だけでなく、国政に出てくると言われてます。
維新の党分裂の時も、役員でもないのに政党を外からかき回した実績があるぐらいで、彼に黙ってろって方が無理だと思います。
まして、来年は大阪維新を国政政党として立て直すわけですから、いろいろ過激な発信をしてくるでしょう。
それはそれで結構ですが、大阪維新がどういうスタンスなのかが問われることになります。
新党大地のように、ローカルパーティーとして国政に関わるのか、それともまた「第三極」として全国政党化していくのか、橋下氏の発言からはどうも後者のような気がします。
そうだとすると、自民党と一緒に所謂「改憲」を掲げるのでしょう、来夏の参院選は「改憲」をテーマに橋下氏の出馬が取り沙汰さていますが、今回の大阪府市長選の勢いをみると、強ち観測気球だけではないようです。
安倍首相としても、「改憲」を実現するチャンスとして橋下維新の動向は注視していると思いますし、勝てると見込んだら衆参ダブル選挙にも打って出てくるでしょう。
いずれにせよ、来年の政治状況は橋下氏に委ねられていますし、大阪の民意が日本を動かすかもしれないのだと思います。
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2015年11月22日

ロシアは対テロ国際協調を

22日朝刊2面【総合・政治】社説2
 エジプトのシナイ半島で先月末起きたロシア旅客機の墜落について、ロシアのプーチン政権が「爆弾によるテロ」と断定した。
 搭乗していたのはほとんどがロシアの観光客で、乗客・乗員224人が犠牲になった。プーチン大統領は「地球のどこにいようが犯人を見つけ出して処罰する」という。ロシアが国際社会の足並みを乱さず、関係国と連携してテロとの戦いを進めるよう求めたい。
 墜落原因を調査した連邦保安庁(FSB)は機体の破片などから外国製爆発物の痕跡が見つかったとし、機内に仕掛けられた手製爆弾が上空で爆発したと断じた。
 ロシア機墜落に対しては、過激派組織「イスラム国」(IS)傘下の組織が犯行声明を出しているが、ロシアはこれまでテロの可能性に慎重な見方を示してきた。
 プーチン政権はIS掃討と称して、9月末からシリア領内で空爆を開始したばかりだ。その報復テロだったと早々に認めれば、政権への不信が国内で広がりかねないと危惧したとみられる。
 ここにきてテロと断定したのはやはり、パリ同時テロの影響だろう。ISによる残忍なテロの被害国としてフランスと共闘すれば、国際社会の同情も集めやすい。ロシアが唱えてきたIS掃討の国際連携と、政権派と反体制派の協議を通じてシリアの内戦終結をめざす構想も関係国の理解を得やすくなると踏んだようだ。
 現にオランド仏大統領は近く米国とロシアを歴訪し、対テロ連携に向けた米ロの仲介役を担う意向だ。ISを封じ込めるには、テロとの戦いで国際社会が結束するとともに、シリアの内戦を一刻も早く終わらせる必要がある。
 ロシアがシリアに介入する思惑をめぐっては、ウクライナ危機による国際的な孤立脱却に加え、アサド政権の延命やシリアでの軍事的な利権保持を狙っているとの疑心が拭えない。ロシアが真に国際連携を望むなら、米欧や中東諸国の主張に真摯に耳を傾け、協調した行動をとることが肝要だ。


「社説」というのは、一応は新聞社を代表する意見だということになってますので、どうしても建前だけになりがちです。
「ロシアが真に国際連携を望むなら、米欧や中東諸国の主張に真摯に耳を傾け、協調した行動をとることが肝要だ」、なんて結語はまさに建前論そのものであり、それまでの状況分析を全部台無しにしてるのですから、むしろ書かなかった方がまだマシでしょう。
重要なのは、「ISを封じ込めるには、テロとの戦いで国際社会が結束するとともに、シリアの内戦を一刻も早く終わらせる必要がある」という所であり、ここで終わっていれば意味ある社説だったと思いますね。
先日も書いたように、「G20でもオバマ、プーチン両大統領がこの問題について、ロビーのソファーでしか話ができてない、そこに同席したのがロシア側通訳とライス安全保障担当補佐官の4人だけという有り様で、米ロがこれではISに対抗なんてできません」、と米露の対立こそがシリア問題であり、逆に言えばオバマ大統領とプーチン大統領ともに受け容れられるプランが問題の解決策だということになります。
社説のとおり、オランド大統領は24日にワシントン、そして26日にモスクワで米露大統領と会うことになっていますが、これはフランスがアメリカとロシアのブリッジになって、シリア問題で妥協策を提示するのだと考えます。
おそらく、主としてアメリカ側にアサド政権の当面維持という妥協を呑んでもらうことになるのでしょう、オランド氏とオバマ氏とで着地できれば、それをプーチン氏に報告するということなので、米露という会談順になっているわけです。
従って、シリア問題が大きく動くとすれば、このブリッジ会談にあると言っていいのです。

もし、オバマ大統領の顔を立てるとすれば、アメリカはイラクのIS攻撃に専念し、ロシアはシリアに専念しましょうという地域分担の案だと思います。
すでに、米特殊部隊など「軍事顧問団」という形でイラクに地上部隊を派遣し、イラク軍やクルド民兵を支援しているアメリカとすれば、割りと飲みやすい話です。
ISの本拠地となっているモスル奪還が、対IS作戦にとって最大のクライマックスでしょうし、シリアではラッカ奪還がそれに当たります。
アメリカはモスル、ロシアはラッカという目標が共有できれば、あとは其々の作戦に拠るところです。
これでオバマ氏が一番嫌がるのは、第二次大戦後の東西分裂ようにシリアがロシアの支配下に入ってしまうことでしょう。
そうは言っても、イラクだってアメリカの支配下なんですから、ISに支配されるよりマシだと考えるべきです。
オランド氏にはウクライナ停戦合意を実現させた自信があり、今回も米露を当事者として説得することができると踏んでいますが、果たしてどうなるのかが注目点です。
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2015年11月21日

十年宰相メルケル氏の試練

21日朝刊19面【マーケット総合2】大機小機
 テロリストの卑劣な企てに屈したくはないが、パリの惨劇に人々のこころは揺れる。生物兵器をつかった新たな襲撃が公然と警告され、外出や旅行の手控えがクリスマスの迫る欧州の景気を冷やしかねない。訪日客消費にわく日本経済に余波が及ぶ懸念もある。
 ギリシャ危機、中東からの難民の流入、ドイツ自動車最大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正。難題続きの欧州はパリ同時テロという新たな一撃をうけた。あす22日で就任10年となるメルケル独首相にもずしりと重い課題になる。
 「インディスペンサブル・ヨーロピアン(欠くべからざる欧州人)」。英エコノミスト誌は今月、同氏の巻頭特集を組んだ。ドイツに辛辣な英メディアすら彼女を持ち上げるのは欧州政治のお寒い現状を映す。
 テロの標的フランスのオランド大統領は経済不振で強いリーダーたり得ない。欧州連合(EU)の統合路線に異議を唱えるキャメロン英首相は「残留か離脱か」の国民投票の準備に没頭する。ハンガリー、スロバキアらに加え政権交代したポーランドが難民受け入れ分担に反対し、東西のあいだで摩擦が起きている。
 「難民を歓迎する」と宣言して喝采を浴びたメルケル氏自身も想定を超す大量の難民流入で支持率低下の憂き目に遭う。テロで市民の意識は一段と内向きになりかねない。国境管理を強化する動きは、自由な移動の原則と相いれない。
 欧州経済を辛うじて支えるのはドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁の話術によるユーロ安マジックだ。来月の追加金融緩和は濃厚だが、カンフル剤も長くはもたない。テロによる萎縮→経済の停滞→失業の増加→難民への拒否反応という連鎖が起きればテロリストの思うつぼだ。日本型のデフレも現実味を帯びる。
 「強すぎる帝国」と皮肉られたドイツが一肌脱ぐ時だ。内需を増進して周辺国の苦境を和らげ、欧州統合を後戻りさせない決意を実行に移す。シュレーダー前首相の「痛みの改革」による経済復調の恵みを10年満喫してきたメルケル氏にとって厳しい試練になる。
 排ガス不正で10月のVW車の日本販売は前年から半減だというが、地元欧州では小幅減にとどまる。ドイツの没落をはやすのは早合点だ。彼女たちの底力はこれから試される。(仙境)


どうでしょうか、やはりドイツは苦しい立場にあるのだと思います。
結局、東西統一とEU統合の経済的恩恵を一番享受したのがドイツだったわけで、「一人勝ち」と言われるのも仕方ありません。
しかし、ギリシアの経済危機において最も厳しい対応をしたのがメルケル首相でしたし、「難民」問題でEU域内の受け容れを強く主張したのも彼女でした。
当然のことながら、「俺達はドイツじゃないんだ」という怨嗟の声もあるでしょう、西ヨーロッパと言っても決して一つではなく、民族も違えば歴史も文化も言葉も違います。
まして、政治的、経済的事情も様々であり、ドイツがやってるからと言って、それを押し付けないで欲しいということです。
これではドイツ帝国支配下の植民地だ、という批判も宜なるかなでして、まして連立政権が多い欧州で10年も首相の座を維持しているメルケル氏はさながら帝国に君臨する女帝に擬えるのでしょう。
そのような情勢で、ドイツの屋台骨を支えているフォルクスワーゲンが不正ソフト問題を起こし、難民に紛れて入り込んだテロリストがありということで、メルケル氏にも逆風が吹き始めたわけです。
心なしか、最近の報道でメルケル首相の影が薄いのも、こうした逆風のせいではないかと思いますが、そうは言っても今もEUを引っ張っているのはドイツに他なりません。
ただ、仙境氏が言うようなメルケル首相が「ひと肌脱ぐ」のか、ここは大いに疑問があります。
実際、EUと言うかドイツにとって重要な相手である中国経済が、あまりよろしくない状況だと言わざるを得ません。
ドイツは、EU内の安いコストで生産した製品を中国で売って稼いできたというビジネスモデルだったのですが、中国市場の減退によって需要が落ちてきています。
例えば、問題のフォルクスワーゲンもここ数年で急激にシエアを伸ばしたのは、アジア太平洋地域すなわち中国マーケットでの販売であり、欧州マーケットに迫る400万台を越える勢いでした。
ところが、中国経済の減速によりビジネスモデルが崩れつつあり、そこに不正ソフト問題が重なったのですから、屋台骨に大きな穴が開いてしまったということになります。
ドイツ経済がおかしくなれば、それはEU全体にも広がりますし、ドイツの力の源泉が好調な経済だったのですから、これが崩れればメルケル首相の力も衰えることになります。
ギリシアも経済危機が解決したわけでなく、EUやECBが追い貸しして破綻を先に延ばしているだけなので、これも時限爆弾なのです。
果たしてドイツに「ひと肌脱ぐ」だけの余裕があるのでしょうか、と思うところです。
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2015年11月20日

ロシア、孤立脱却狙う 対テロ 欧米と関係修復探る

20日朝刊7面【国際2】モスクワ=古川英治
 ロシアのプーチン政権がパリで起きた同時テロを利用し、対テロ共闘に向け欧米に攻勢を掛けている。過激派組織「イスラム国」(IS)掃討で世界的に結束機運が高まる中で自国機の墜落もテロと断定し、シリアでの軍事作戦をてこ入れした。対テロで欧米との関係修復を探りながら、ウクライナへの軍事介入を契機とした国際的な孤立から脱却する狙いだ。
 プーチン大統領は対テロが主題となったトルコでの20カ国・地域(G20)首脳会議から16日に帰国するとすぐ会議を開き、10月末に起きたロシア機墜落を爆弾テロと断定した。調査結果が出るまではテロと断定しないとするこれまでの慎重姿勢を転換し、エジプト主導の調査団の判断を待たずに急きょ結論を出した。
 その後の動きは素早かった。17日にはシリアを拠点とするテロ組織への空爆を倍増。ロシアから戦略爆撃機を展開して巡航ミサイルによる攻撃も実施したと発表した。パリのテロを受け、フランスなどが軍事作戦の強化に乗り出すの見て、「連携」を演出した。
 プーチン大統領はオランド仏大統領が対テロを巡り米ロとそれぞれ首脳会談を開くとの発表を受け、地中海に展開する仏海軍との協力を調整することも指示した。ロシア国防省によると、仏ロ両軍幹部は19日、共同作戦を巡り電話で実務的な協議をした。
 プーチン大統領は9月、シリアのアサド政権を含めた国際的な対IS連合を提唱し、直後に同政権を支援するためにIS掃討の名目でシリアへの空爆を開始した。アサド政権の退陣を求める米欧などとの溝は埋まっていないが、パリのテロを転機にロシアの思惑に近い方向に国際世論が傾きつつある。
 米欧ロや中東の関係国の外相は14日の会議でアサド政権と反体制派の停戦協議を開始することで合意した。テロの脅威が広がる中で対ISを優先し、アサド政権存続の是非を巡る議論をとりあえず棚上げする流れだ。
 米国は現時点でロシアを受け入れているわけではない。オバマ米大統領はG20会議で米欧諸国やサウジアラビアなどシリア領内の反体制派を支援する有志連合の枠組みでIS掃討作戦を強化する姿勢を示した。
 これに対しテロ対策を迫られるオランド仏大統領は来週、オバマ大統領とプーチン大統領とそれぞれ会談する。プーチン大統領は仏など欧州諸国の動揺を見透かし、軍事、外交の両面でたたみかけており、米欧に協力を迫る構えだ。


今般、ロシアによるIS空爆は、国連憲章51条に基づく自衛権の発動だとプーチン大統領は宣言しています。
ここで言う「自衛権」とは「個別的自衛権」を指しており、法理的にはロシア機墜落をISによる武力攻撃だと認定したわけです。
一方、フランスのオランド大統領もパリ襲撃事件を受けて、EU諸国へ欧州条約42条7項に基づく「集団的自衛権」の発動を要請します。
欧州条約42条7項とは、「欧州加盟国がその領土内において武力攻撃による標的になっている場合、他の加盟国は如何なる援助、救済をしなければならない」と少々緩い規定ですが、例え後方支援でも武力攻撃と一体であるという法理解釈に従えば、これも立派な「集団的自衛権」の発動に他なりません。
なぜ、NATOでなくEU条約による「集団的自衛権」だったのかに対して、ロシアとの協力を見据えたフランスの配慮であるという解説が一番胸に落ちてきます。
かようにマスコミ用語である「きな臭い」情勢に国際社会は向かっているのですけど、こうした現実を目の前にすると、この夏の日本における「自衛権」論争というのがいかに稚拙で空論であったのかがよく分かります。
自国の旅客機が海外でテロリストによる爆弾で墜落した、そこで軍が他国にあるテロの本拠地を空爆しに行く、これは国連憲章51条に基づく「個別的自衛権」なんだと言うのが、国際的に共有されている考え方です。
ところが、日本における「個別的自衛権」の概念はどうも違っていて、先の「自衛権」論議をロシアの行動にあてはめると、「先の大戦と同じく個別的自衛権を拡大解釈した侵略戦争」だということになりましょう。
パリ不戦条約以降、表立って「侵略します」だなんて宣言する国もないので、どの戦争でも「防衛のための戦争」であり、「個別的自衛権」の発動を大義としているのですから、拡大解釈だという批判は決して的外れではありません。
しかし、現在のロシアの行動に対して、そうした批判はアメリカはじめ国際社会からは聞こえてこず、これが現実だというお話しです。
あるいは、民主党が唱えていた「日米の共同行動は集団的自衛権でなく、個別的自衛権で対処できる」という考え方も、「個別的自衛権の拡大解釈」ということになります。
「個別的自衛権」なら良くて、「集団的自衛権」なら戦争ができる国になる、なんていう論議がいかにトンチンカンなのか、誰だって理解できると思います。
「戦争」とは、こちらが望まくても相手が仕掛けてきたら対応することであり、それが「自衛権」だということです。
勿論、テロリストだって「こっちも自衛権の発動だ」と主張するでしょう、だから「戦争」とは「自衛権」と「自衛権」との戦いなんですね。
従って、「自衛権」を個別的だ集団的だというは、単に法理上の区別だけであって、実際の「戦争」に直面したらあらゆる「自衛権」でもって国民を守るのが国家の責務となります。
それを相変わらず言葉遊びというか字面に拘泥して、不毛な論議を繰り返してきた我が国は「戦争」への危機感が本当に薄いのだなと感じますね。
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2015年11月18日

辺野古、異例の訴訟合戦 官房長官「工事進める」/沖縄知事「容認できぬ」

18日朝刊3面【総合2】
 米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題は、政府と沖縄県双方が司法に訴える異例の訴訟合戦となる。政府は裁判結果に自信を持っており、移設工事は中断せず2020年の完工をめざすとしている。翁長雄志知事は「基地建設は容認できない」と提訴で対抗。民意も鍵を握るとみて辞任して臨む出直し選や県民投票の検討に乗り出した。
 「知事から解決策を聞いたことがない」。17日午後の記者会見。菅義偉官房長官はいつになく厳しい口調で翁長氏を批判し、提訴を「やむをえない措置」と主張した。
 1995年以来、20年ぶりとなる政府と沖縄県の法廷闘争。今回も先に訴えたのは政府だ。翁長氏による埋め立て承認の取り消し処分を撤回する「代執行」に向け、裁判を起こした。
 政府側は高裁判決は来年2〜3月、県が上告しても最高裁判決が出るまで1年程度と見込む。その間も移設作業を続け、年内には辺野古の護岸に埋め立て作業の足場をつくる工事に入る方針だ。
 代執行が認められれば20年完工への担保ができる。米軍嘉手納基地以南の施設・区域の返還も動き出し、県民の理解は広がるとみる。菅氏は「沖縄に駐留する米軍のうち約3分の1の9000人がグアムをはじめ国外に移設する」と訴えた。
 1時間半後、沖縄県庁。「沖縄差別の表れだ。県民に『銃剣とブルドーザー』による強制接収を思い起こさせる」。顧問弁護士と並んで記者会見した翁長氏は怒りをあらわにした。県の提訴について「視野に入れながら物事を進めていきたい」と意欲を示した。
 ただ、政府との訴訟合戦が有利に進む保証はない。翁長氏周辺は出直し選や県民投票案も検討する。裁判で敗れても、新たな民意が示されれば、埋め立て承認を改めて撤回できるとみるからだ。
 沖縄は16年が選挙イヤー。1月に宜野湾市長選、夏に県議選と参院選を控える。同じように選挙が相次いだ14年は名護市長選や知事選、衆院選で辺野古反対派が勝利した。
 倒れるのはどちらが先か。エスカレートする対立は、政権と翁長氏のチキンレースの様相を帯びてきた。


95年とは、沖縄県内の米軍用地強制使用の代理署名をめぐり、当時の村山富市首相が大田昌秀知事を提訴したという裁判のことであり、翌96年に県側の上告が棄却されて沖縄の敗訴が確定します。
そもそも、海や海岸部は国有地であり、県はその埋立承認を国から事務委任されているに過ぎず、県がどうこう言った所で国は「自分の所有地をどうしようが関係ないでしょ」というだけのお話です。
だから、司法の場に持ち込んだとしても国が勝つのは当然で、正直言って翁長知事は無駄に足掻いているだけにしか思えないのです。
「反基地は票になる」、仲井真前知事が証言しているように、翁長知事も多分に政治的思惑でもってこうした運動をしているのでしょう、しかし「沖縄差別の表れだ。県民に『銃剣とブルドーザー』による強制接収を思い起こさせる」などとゴネるのはどうかと思います。
まして、基地受け容れの反対給付が沖縄振興策だというのは、誰もが分かっていることであり、カネだけ取って負担は嫌がるのかという批判は、沖縄県民にとってもあまり気分がいいものでないでしょう。

地政学的環境から沖縄が日本やアジアにとって安全保障上重要な地域であることは、論を俟たないと思います。
太平洋戦争において、なぜ米軍が真っ先に沖縄占領を目指したのか、そして今もって海兵隊や空軍など在沖米軍が駐留しているのか、アメリカだって戦略的に価値がないならさっさと軍を引き揚げます。
アジア有事を想定すれば、日本もアメリカも沖縄が橋頭堡になるわけで、これが嫌だからと言って島ごとどこかに引っ越すわけにもいかないのです。
これさえ理解できていれば、むしろ沖縄がパワーの空白域になることの方がいかに危険であり、沖縄の安全保障にとっても大問題だということになります。
それを「沖縄差別」と問題をすり替えるのは、本当に現実を直視していないのか、それとも票やおカネ目当ての強請なのかでしょう。
菅官房長官との会談でも、最後まで抑止力の意味が分からないと知事は発言していましたので、理解力に乏しい御仁が首長になった不幸を県民も嘆かなければなりません。

手続論でも負け、司法でも負け、最後は民意に訴える、法と秩序を守るべき知事が率先して大衆扇動しようということですね。
移設反対で当選したのだから、やるだけやらないと立場がない、もしそうならば政治家としてどうかと思います。
実際に行政を担う立場になったら現実論に立つ、これは決して間違いでありません。
民主党政権も批判はありましたが、現実路線に軌道修正したわけですし、人々が行政に求めるのは活動家でなく、実務家のはずです。
勝てる闘いでもないものに行政のエネルギーを注ぎ込み、本来やるべき普天間返還後のプランをおざなりにするのは沖縄にとっても日本にとっても不幸です。
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2015年11月17日

仏、対テロ戦に決意 大統領「空爆を強化」 市民、報復の連鎖を懸念 首相「シリアで犯行計画」

17日朝刊2面【総合2】パリ=竹内康雄
 13日夜に起きたパリ同時テロへの報復措置として、仏軍は15日、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆に踏み切った。オランド大統領は16日の演説で「われわれは戦争状態にある」と強調し、断固とした決意でテロとの戦いに臨む姿勢を示した。ただ、仏国民の間では新たなテロを心配する空気も強まっている。
 バルス首相は16日、仏ラジオ番組で「テロはシリアで計画された」と明らかにした。詳細な言及は避けたが、少なくとも2人の実行犯はシリアに渡航した経歴がある。うち一人はISと接触した経歴が確認されている。
 なぜフランスが再度、テロの標的になったのか。直接のきっかけは、仏軍によるISへの空爆だ。フランスは2014年にイラク領内のISへの空爆を始め、今年9月にはシリア領内に広げた。同時テロの実行犯の一人が「シリアを攻撃した罰だ」と叫んだとの報道もある。フランスは米と並び、ISの攻撃対象の筆頭候補になっている。
 フランスはシリアの旧宗主国で、もともと関係が深い。11年にシリアで内戦が始まった際は、アサド政権の独裁体制を批判し、圧力を強めた。
 フランス国内で暮らすイスラム系の住民の間で、仏社会に対する不満が高まっているという事情もある。フランスでは政教分離が徹底しており、11年にはイスラム教徒の女性が顔などを隠すブルカを公共の場で着用することを禁止した。
 こうした動きを「差別」と感じ、社会からの疎外感を抱える移民系の若者が増えている。過激思想に染まり、シリアやイラクに渡る者が現れた。多くの移民を受け入れてきたフランスは「テロリスト予備軍」が、欧州で最多の2000〜3000人いるという。
 「シリアでの作戦を強化する」。オランド大統領は16日、国会議員らを前に力説した。仏空軍は15日、シリア域内のIS拠点への空爆を実施。10機の戦闘機が20の爆弾を投下し、関連施設を破壊した。同日にはルドリアン仏国防相とカーター米国防長官は電話会談で空爆を強化することで一致した。
 仏軍の空爆に成算があるわけではない。空爆だけでISを壊滅に追い込むのは難しい。仏国内では今回の同時テロをきっかけに「地上軍の派遣を検討すべきだ」との声も一部で上がる。
 しかし、自らの被害が大きくなりかねないだけでなく、さらなる報復テロが起きるリスクも格段に高まる。攻撃が反撃を生む負の連鎖に入り込む懸念は消えない。「我々はこの脅威と当面、向き合って暮らさねばならない」。16日、バルス首相はこう語った。


テロの標的とされた原因をいろいろ忖度するのは、あまり建設的ではありませんし、第一にそうやって世論分断を図ろうというテロリストの意図どおりになる恐れがあります。
攻撃されたのは、そこが脆弱だったからであり、「鎖は弱い所から切れる」ということです。
守りを強くし、「聖域」を潰していくという教科書どおりのオペレーションしかないわけで、フランスの国内事情にいろいろ要因を求めたところで何ら解決しないのです。
そこで問題なのが、空爆だけで成算があるのかということですが、これは勿論無理だと言わざるを得ません。
第一次大戦後でしたか、所謂「空軍万能論」というのがあり、第二次大戦後もエアパワーを過大に見積る傾向がありました。
しかし、湾岸戦争やアフガン・イラク戦争とも「ブーツオン・ザ・グラウンド」だったわけで、対テロ戦に関わる諸国は陸兵の派遣をどこかで決断せざるを得なくなると思います。
ここから先は、軍事的要請と言うより政治的マターなのでしょう、であれば「戦争を止める」という公約で当選したオバマ大統領は、大きな派兵を決断できないことになります。
あるいは、フランスでも「極右政党」と呼ばれる国民戦線が社会党のオランド政権に代わらない限り、空爆でお茶を濁すしかないのだと思われます。

一方で、ロシアが主張しているようにシリアのアサド政権を支援して対IS作戦の中核にしようというのは、非常に魅惑的な構想です。
もともと、シリアとイラクでの「内戦」なのですから、時の政権が解決すべき事態であり、外国軍が勝手に空爆したりするのも筋としてどうかと言うことです。
アメリカがイラク軍やクルド民兵を支援して対IS戦を行っているように、シリアでもシリア軍を押し立ててISに当たらせるのは、決して間違いではありません。
問題なのは、「レッド・ラインを越えた」とかでアサド政権打倒を宣言してしまったオバマ大統領の対応です。
戦略的見地にたてば、先の見通しなく宣言した「レッド・ライン云々」はかなりナイーブなものであり、まずは当面の敵であるISに対抗するため引っ込める必要があります。
戦略とは優先順位をつけることだと言われてますが、アサドもダメ、ISもダメだってのでは戦略も何もありません。
ウクライナ・クリミア半島のことでプーチン大統領にやられっぱなしなのも分かりますが、ここはロシアの構想に乗ってみるのが戦略というものでしょう。
ところが、G20でもオバマ、プーチン両大統領がこの問題について、ロビーのソファーでしか話ができてない、そこに同席したのがロシア側通訳とライス安全保障担当補佐官の4人だけという有り様で、米ロがこれではISに対抗なんてできません。
オバマ政権が終わるまで、ISはまだまだ延命するのではないかと思わざるを得ませんね。
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2015年11月16日

実行犯、周到に準備 偽造旅券で入国か 仏過激派と連携

16日朝刊2面【総合・政治】パリ=黄田和宏
 13日夜にパリで起きた同時テロの実行犯の身元などが徐々に明らかになってきた。過激思想を持つフランス人のほか、シリアからの難民を装って入国したとみられる人物も含まれる。「多国籍」のメンバーで構成するグループが共同で犯行に関与した疑いが強まっており、ベルギーのグループが重要な役割を担っていたとの見方も浮上している。
 約80人が死亡したバタクラン劇場の実行犯の一人はパリ郊外クールクーロンヌの出身の29歳のフランス人の男、オマル・イスマイル・モステファイ容疑者(死亡)とみられる。アルジェリア系で軽犯罪歴がある。5年ほど前から過激思想に傾き、治安当局が警戒していた。事件の聴取のため、モステファイ容疑者の家族も警察に拘束された。
 パリ郊外サンドニの競技場「スタッド・ド・フランス」近くで起きた2回の爆発事件では、現場からシリアのパスポートが発見された。難民を装ってギリシャから入国したとみられる容疑者の一人が関与したもようだ。
 検察当局は、この人物と過激派組織「イスラム国」(IS)との関係について捜査している。一方、米CBSニュースは米情報当局者の話として、パスポートが偽造された可能性があるとの見方を示した。トルコで作成されたとの指摘もある。
 さらに、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、死亡した実行犯の一人と見られる人物が、テロ当日のフランス代表とドイツ代表のサッカーの親善試合の観戦チケットを保有し、競技場に入場しようとしていたと報じた。競技場ではオランド仏大統領やドイツのシュタインマイヤー外相のほか、両国の多くの要人が観戦していた。場合によっては被害が拡大していた可能性もあった。
 捜査はフランス国外にも広がっており、ベルギーの放送局は実行犯の2人がブリュッセル在住との情報を伝えた。15日までにベルギーとフランスにまたがる地域で7人が拘束された。ベルギーのグループが今回の犯行で重要な役割を担った可能性がある。バタクラン劇場の銃撃では、現場でベルギーナンバーでグレーのフォルクスワーゲン車「ポロ」が確認されており、車内からブリュッセルのモレンベーク地区の駐車場の利用券が発見されたとの情報もある。
 ベルギーでは近年、過激思想を持つ活動家が増えている。英ロンドン大学キングス・カレッジの過激化研究国際センターによると、ベルギーは人口100万人あたり40人の割合で戦闘員をシリアやイラクでの活動に供給している。この比率では欧州で最高水準だ。


もともとISは、イスラム国家の樹立を目的としてイラクそしてシリアの支配を進めてきたもので、アフガニスタンにおけるタリバンのようにローカルな過激派だとされています。
一方、アル・カイダはグローバル規模のジハードを遂行しようと、小規模な秘密結社を作り、世界中で「国際テロ」を起こしてきました。
ビン・ラディンがイエメンからアフガニスタンに活動拠点を移したのも、彼らの庇護者がタリバンだったからで、「国際テロ組織」はこうした「聖域」を確保し、そこに人材をリクルートし資金を集め、世界に散らばらせるという活動を行ってきたわけで、対テロ作戦としてはいかに「聖域」を潰していくかに話は尽きます。
ISが非常に特異的なのは、地域支配を目指すタリバン的性格であると同時にアル・カイダ的な国際テロ組織を内在させている点だと思います。
これについて、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)で池内恵氏は「二〇一四年六月以降のモースル制圧やシリアでの支配領域拡大によって、『イスラーム国』は、アル=カーイダの流れを汲む国際テロ組織としての性質と、ターリバーン的に内戦・紛争の中で台頭して領域支配を行う土着勢力としての性質の両方を、兼ね備える存在となった」と指摘しており、専門家もISによる国際テロの危険性をかなり早い段階で認識していたことになります。
にも関わらず、欧米の治安・情報当局に察知されることなく、大規模なテロが実行されたことが一番の衝撃なのではないでしょうか。

巷間、アル・カイダは残虐的なISを敵視しているとも言われていました、しかし先日もリビアではアル・カイダの元メンバーで現在はIS幹部のアブ・ナビル容疑者が米軍の攻撃で殺害されたとされており、アル・カイダからISへの人的流出を物語っています。
あるいは、アル・カイダ系と呼ばれていた各地域のテロ組織がISに忠誠を誓うなど、テロ界隈でも栄枯盛衰が激しいのだと感じます。
流行り廃りではありませんが、国際テロ組織業界ではアル・カイダはもうダメで、これからはISだということなのでしょう、人が流ればおカネも流れるというお話です。
では何故、地域支配のISが国際テロなのか、それはアル・カイダのグローバル・ジハード戦略とは違い、戦術面での作戦だと考えます。
欧米に加えて、ロシア、トルコによる空爆が奏功してきているのではないか、これに対抗するには相手国の国内世論に厭戦気分を喚起させる以外に方法はありません。
テロとは、相手に嫌がらせして行為を止めさせることであり、このまま空爆を続けていると欧米の無辜の民がどんどん死んでいくぞという脅しなのです。
従って、ロシアの旅客機墜落もISの手によるテロだと考えた方がいいでしょうし、今後はますます苛烈になると警戒すべきです。
しかも、テロの国際ネットワークはアル・カイダ時代に確立し、IS自身が作戦を立案・遂行したりしなくとも、現地の事情に通じている地元出身でISに忠誠を誓う人物や組織をリクルートし、資金や武器などアセットを与えればテロが実行されてしまうのです。
海外の地元企業を買収し、経営を任せているようなお話で、参入障壁がかなり低いと言わざるを得ません。
しかし、対テロの教科書どおり、これもシリア・イラクという「聖域」があればこそで、「聖域」を潰していく以外にテロとの闘いには勝てません。
しばしば、「暴力の連鎖」という建前で、対テロ戦争を非難する向きもありますが、戦争である以上、どちらが勝つかという以外に道はないのです。
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2015年11月01日

検証 バブル失政 軽部謙介著 当局者の迷いを肉声から再現

1日朝刊23面【読書】
 為替の調整を通じて世界的な国際収支の不均衡を直そうとする1985年のプラザ合意で、日本経済は円高の大波にもまれた。日本に内需拡大を迫る米国、圧力を日銀に投げ渡す大蔵省(現在の財務省)。長引いた金融緩和や不動産マネーの制御の遅れはバブルの膨張と崩壊を招いた。その「バブル失政」を当局者の肉声をもとに検証した。
 著者は通信社の解説委員長。80年代後半の大蔵省をはじめ日米の財政・通貨当局の取材に携わり、その経験と人脈を生かした。三重野康・元日銀総裁らが残したオーラルヒストリー、日米政府や日銀の内部記録、ボルカー元米連邦準備理事会(FRB)議長らとの個別インタビューから、意思決定の現場を再現した。
 度重なる日銀の公定歩合引き下げ、邦銀の伸長をけん制する国際決済銀行(BIS)規制、不動産融資への総量規制の導入といった場面で「誰が、いつ、何を考えたのか」を掘り起こした。経済や市場の変調を感じながら適切な手が打てなかった政策当局者の弁明や反省の言葉もちりばめられている。
 85〜90年の膨張期に絞った検証ではバブルの全体像は語れないかもしれない。だが、時を経てこそ入手できる記録や証言を丹念に集めた本書は30年前の日本の迷いを生き生きと描き出している。


やはり、バブル研究の決定版は総合研究開発機構(NIRA)研究会による『平成バブルの研究』(上下巻・東洋経済新報社刊)でしょう。
本書は様々な分野の研究者たちが、1980年から1999年までの経済、金融、政治、社会状況の学術研究をプロジェクトとして纏めたものあり、バブル形成から崩壊、そして「失われた90年代」までを総括しています。
編纂されたのが2002年と、バブル時代の生々しい記憶が残っているうちだったので、各種のデータだけでなくマスメディアの影響なども的確に指摘しているなど、大変興味深い所があります。
一方、軽部氏の『バブル失政』は当時の政策決定プロセスを証言者のオーラルヒストリーで綴ったもので、前述の『平成バブルの研究』と併せて読むと、いわゆる「バブル」とは何かというのが理解できると思います。
ただ、「バブル」現象そのものは、古今東西どこでも起こっているものであり、経済としては所与の現象だと思った方がいいでしょう。
そして、経済が過熱しそうだと分かっていながら、いろいろな事情で当局が手を打てずに「バブル」となるのも、これも当たり前だと思うのです。
逆に言えば、ちゃんと対策が打てて奏功していれば「バブル」にはなってないので、誰も「バブル」を認識することがないわけです。
従って、「バブル」自体を悪だとか失政だとか決めつけるのはメディアの悪癖ですし、著者が時事通信の記者だったという経歴からしても、いかにもという感があります。
私たちが考えなければならないのは、「バブル」をどう沈静化させていくかという事後の対処策ではないでしょうか。
失政と言うのならば、それは過度に「バブル」を潰した政策こそが失政であり、そこには「バブル」の最中に「バブル」を煽り、それが崩壊をはじめると「平成の鬼平」と言って「バブル退治」なるスローガンで加速させるマスメディアの果たした役割まで追及する必要があります。
当時の政策だけが悪かったというのは実に簡単ですが、それでは後世に何の教訓も残さないのは、戦前、戦中のメディアや社会の存在がないが如きの歴史研究と同じじゃないでしょうかね。
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